連載A級紙

【A級紙】#02 ディオファントス方程式~フェルマーの最終定理とABC予想を添えて~

シリーズ「A級紙」は、皆さんが高校までで学習している内容が大学ではどんな風に現れるのか、また実際の研究でどのように使われているのか、生活にどのように溶け込んでいるのかといった話題を、東京大学の数学・物理・化学の入試問題に(無理矢理)絡めてちょっとだけでも知ってもらい、勉強をより一層楽しんでもらおうという連載です。

こんにちは!

勉強の息抜きとして気軽に読める。でもちょっと背伸びした内容。
そんな「A級紙」連載ですが,前回記事から 3 年の時を経て,連載を再開することにしました!
過去にこのサイトで公開していた記事をリニューアルして,不定期で更新していくことにします。

今回のテーマは「整数」。
整数問題は,東大の二次試験でも得意不得意がはっきり分かれる分野です。
整数の中でも,ディオファントス方程式というものをご紹介します。

ディオファントス方程式とは,整数係数で多変数の不定方程式のこと。
形式ばって定義を述べると難しく聞こえますが,高校数学でもその一部が登場しています。

たとえば,2 変数の不定方程式 $5x + 7y = 4$ も,ディオファントス方程式の一種です。
また,中学三年生の数学で三平方の定理 $a^2 + b^2 = c^2$ が登場しましたが,直角三角形の三辺の長さを自然数に限定すれば,これもディオファントス方程式の一種となります。

東大の入試数学においては,たとえば2006年の理系数学第4問で $x^2 + y^2 + z^2 = xyz$ というものが登場しています。
参考までに,その問題を載せておきます:

次の条件を満たす組 $(x, \, y, \, z)$ を考える。

条件(A): $x, \, y, \, z$ は正の整数で,$x^2 + y^2 + z^2 = xyz$ および $x \leqq y \leqq z$ を満たす。

以下の問いに答えよ。

(1) 条件 (A) を満たす組 $(x, \, y, \, z)$ で,$y \leqq 3$ となるものをすべて求めよ。
(2) 組 $(a, \, b, \, c)$ が条件 (A) を満たすとする。このとき,組 $(b, \, c, \, z)$ が条件 (A) を満たすような $z$ が存在することを示せ。
(3) 条件 (A) を満たす組 $(x, \, y, \, z)$ は,無数に存在することを示せ。

2006年 東京大学 前期二次試験 理系数学 第4問 より

ちなみに,この問題の解説動画は こちら です。

ディオファントス方程式の研究に関わった有名な数学者の一人にフェルマーが挙げられますが,彼の残したフェルマーの最終定理は歴史上の難問としてあまりにも有名です。

フェルマーの最終定理

$n$ を 3 以上の自然数とするとき,方程式 $a^n + b^n = c^n$ を満たす自然数の組 $(a, \, b, \, c)$ は存在しない。

この定理の証明自体は1995年にワイルズ氏によって完成されていますが,2012年8月に京都大学の望月新一氏が証明を発表した「ABC予想」※を用いると,このフェルマーの最終定理ですら直ちに示されてしまうということでニュースにもなりました。

※数理研発行の数学誌「PRIMS(ピーリムス)」によると,2020年に査読は終了したとされ,2021年の3月に特集号として望月氏の論文が掲載されています。
しかし,あまりに難解な論文ということもあり,その証明には懐疑的な声もあるとのことです。
論文が正しいか否かは当然私(筆者)には判断できないため,それについては一切言及しないことにします。
また,ここでは「ABC予想」という名称で統一することにします。

そのABC予想を具体的に紹介する前に、まずはどんなものなのか実感として知ってもらうため、これをベースにちょっとした問題を作ってみました。是非じっくりと考えて取り組んでみてください。

問題

$a < b$ であり,$a + b = c$ となる 3 つの自然数 $a, \, b, \, c$ のうち,$a$ と $b$ とが互いに素であるものを $abc$ トリプルと呼び,2 以上の自然数 $n$ の互いに異なる素因数をすべて掛け合わせたものを $rad(n)$ と表すことにする。たとえば $rad(18) = rad( 2 \times 3^2 ) = 2 \times 3 = 6$,$rad(17) = 17$,$rad(16) = rad(2^4) = 2$ となる。

(1) $c = 2013$ のとき,$abc$ トリプルとなる自然数 $a, \, b$ の組の総数を求めよ。
(2) $c = 2500$ である任意の $abc$ トリプルについて,不等式 $(rad(abc))^{1.5} > c$ が成り立つことを示せ。

整数問題が得意な人は,ぜひチャレンジしてみてください!
せっかくなので,解答も示します。

解答

(1)

$p < q$ かつ $p + q = 2013$ となる自然数 $p, \, q$ を考える。

$p, \, q$ の最大公約数を $k$ として,互いに素である自然数 $m, \, n$ を用いて $p = km, \, q = kn$ と表すと,$k(m+n) = 2013$ となるが,$2013 = 3 \times 11 \times 61$ であるから,$m+n$ が $2$ 以上の自然数であるため,$k = 1, \, 3, \, 11, \, 61, \, 3 \times 11, \, 3 \times 61, \, 11 \times 61$ に絞られる。このうち $k = 1$ のとき $p, \, q$ 互いに素であるため,$(p, \, q, \, 2013)$ は $abc$ トリプルとなる。

$p < q$ であることと,$k = 1$ に限定したとき $p, \, q$ が一対一に対応することから,求める個数は 2013 以下の自然数のうち $3, \, 11, \, 61$ の倍数でないものの個数の半分に等しい。

($3$ の倍数の個数) $= 2013 \div 3 = 671$ 個
($11$ の倍数の個数) $= 2013 \div 11 = 183$ 個
($61$ の倍数の個数) $= 2013 \div 61 = 33$ 個
($3 \times 11$ の倍数の個数) $= 2013 \div (3 \times 11) = 61$ 個
($3 \times 61$ の倍数の個数) $= 2013 \div (3 \times 61) = 11$ 個
($11 \times 61$ の倍数の個数) $= 2013 \div (11 \times 61) = 3$ 個
($3 \times 11 \times 61$ の倍数の個数) $= 2013 \div (3 \times 11 \times 61) = 1$ 個

したがって,求める個数は $(2013 - (671 + 183 + 33) + (61 + 11 + 3) - 1) \div 2 = 600$ より 600個 となる。

(2)

ある $abc$ トリプルにおいて,$a$ と $c$ の最大公約数を $k$ とし,互いに素である自然数 $m, \, n$ を用いて $a = km, \, c = kn$ と洗わせたとすると,$a + b = c \Leftrightarrow b = k(n-m)$ となる。$n-m$ は整数だから $b$ は $k$ の倍数となるが,$a$ と $b$ とは互いに素であるため $k = 1$ である。したがって,$abc$ トリプルにおいて $a$ と $c$ とは互いに素であり,同様に $b$ と $c$ とも互いに素である。 (*)

また,互いに素である $2$ 以上の自然数 $m, \, n$ について,定義より明らかに $rad(m \times n) = rad(m) \times rad(n)$ が成り立つ。 (**)

(*), (**) より,$c = 2500 = 2^2 \times 5^4$ である $abc$ トリプルにおいて,$rad(abc) = rad(ab) \times rad(c)$ (★) が成り立つ。

ここで,$a, \, b$ は互いに素である整数だから,$a > 1$ のとき定義より $rad(ab)$ が 2 つ以上の素数の積で表されるといえるが,$a = 1$ のときも $b = 2499$ より $ab = 2499 = 3 \times 833$ となるので,これは全ての自然数についていえることがわかる。

したがって,(*) より,$a, \, b$ はそれぞれ 2500 と互いに素であるから,素因数に 2 と 5 を含まないので,素数が小さい順に $2, \, 3, \, 5, \, 7, \dots$ であることを考えて,$rad(ab) \geq 3 \times 7 = 21$ となる。

したがって,(★) より,$c = 2500$ である $abc$ トリプルにおいて
$(rad(abc))^{1.5} = (rad(ab) \times rad(c))^{1.5} \geq (21 \times 2 \times 5)^{1.5}$
$= 210^{1.5} > 210 \times \sqrt{196} = 2940 > 2500$
となるから,$(rad(abc))^{1.5} > c (= 2500)$ が成り立つ。■

さて,上の問題では簡単のため $c$ を固定して考えましたが,本当の ABC 予想では任意の $c$ を扱います。実際に手を動かしてみると,大抵の $abc$ トリプルで $rad(abc) > c$ が成り立つことが分かりますが,稀にそうならない場合も見つかります。たとえば $(a, \, b, \, c) = (1, \, 8, \, 9)$ では,$rad(abc) = rad(2^3 \times 3^2) = 6 < c (= 9)$ となり,確かに $rad(abc) < c$ が成り立っています。平たくいうと,このような例外的な $abc$ トリプルが無限個は存在しないというのが ABC 予想です。

ここで,その ABC 予想からどうしてフェルマーの最終定理が直ちに導かれるのか考えてみます。仮に $(rad(abc))^2 < c$ を満たす $abc$ トリプルが存在しないことが示されたとしましょう。フェルマーの最終定理の方程式 $a^n + b^n = c^n$ (☆) で $a, \, b, \, c$ は全て互いに素として構いませんから(注:共通の素因数 $p$ が存在するならば,式の両辺を $p^n$ で割り算することにより,3 つの数を全て互いに素にできるため),$(a^n, \, b^n, \, c^n)$ は $abc$ トリプルの条件を満たします。よって,仮定より任意の $(a^n, \, b^n, \, c^n)$ の組について $c^n < (rad(a^n b^n c^n))^2$ が成り立ちます。一般に正の整数 $d, \, l$ について $rad(d^l) = rad(d) \leq d$ が成り立つため,$(rad(a^n b^n c^n))^2 \leq (abc)^2 < c^6$ となり,$c^n < c^6$ より $n < 6$ がしたがいます。

$n = 3, \, 4, \, 5$ のそれぞれの場合については (☆) が成り立たないことは,昔から古典的な方法で証明されています。
以上を合わせると,フェルマーの最終定理が正しいことが証明されるのです。
※フェルマーの最終定理の $n = 4, 3$ については高校生でも理解しやすいと思います。興味がある人は調べてみてください。

受験数学で「整数問題」として扱われるものは,アカデミックには大抵「数論」というものの範疇になっていますが,数論は最先端の話題でも他の分野に比べ題意の理解だけなら簡単なことが多く,なのに解決は大変難しいというその深みから沢山の人を魅了しています。
これが数論が“数学の女王”と呼ばれる所以であり,そう呼ばれるのも確かに無理はない気がします。

また,数論なんてこんな数のパズルが一体何の役に立つのか,と思う人もいるかもしれませんが,有名どころでは情報数学の暗号理論に素因数分解が大変大事になってきたりだとかいう話を聞いたことがある人もいるかと思います。
その他でも整数の持つ様々な性質が,情報科学で役に立っています。
情報の分野なんてこれからもっと発展するでしょうから,整数の性質は現代でもますますその重要性を増していくでしょう。

そんなわけで,深く広い整数問題の世界。

東大入試の整数問題は確かに難しいことも多いですが,そこから得られる味わいもまた乙なものです。
他の年度の整数問題でも,また興味深い内容に関連があれば取り上げてみたいと思いますが,今回はここまでにします。
ありがとうございました!

参考になるサイト:

この記事の著者/編集者

林俊介 東大入試ドットコム 編集長 

東大入試ドットコムの編集長です。 Twitter @884_96

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