「怖い時ほど、前に出る」——私が東大で身につけた、一生ものの考え方
連載:「継続」「経験」「信頼」を資産に――重松英さんインタビュー
2026.07.22
本記事では、重松さんの東大生活を振り返っていただきました。
ボクシングから学んだ「勝つための考え方」から、今振り返ってわかる「東大を目指す本当の意味」まで。貴重なお話を伺うことができました。
【東大での経験① ボクシングから学んだ、勝つための考え方】
次に、私の東大での日々を振り返ると、法学の学習に加え、ボクシング部での活動が大きな柱だったと思います。
ボクシングは、相手と殴り合いをする過酷なスポーツです。それに本気で向き合った結果、厳しい状況の中でも「勝負に勝つ」ための大切なポイントを学ぶことができました。
その1つ目は、「力まないことの大切さ」です。
実は、私は高校時代にはこれを全く実践できていませんでした。私は高校の部活で野球をやっていて、普段はある程度打てるのですが、なぜかチャンスの場面になると打てなくなることが多かったんです。振り返ってみると、「ここで活躍したい」「いいところを見せたい」と思って力んでしまっていたのだと思います。
しかし、この「力み」が、良いパフォーマンスを出そうとする上での大敵なんです。力むとすぐに疲れてしまいますし、動きもぎこちないものになってしまいます。
人間が一番高いパフォーマンスを発揮できるのは、余計な力を抜き、余計な思考を省き、自然体で物事に集中できているときです。
私がボクシングから学んだのは、余計なことを考えずに目の前のことへ集中することの重要性でした。「勝ちたい」という気持ちや情熱は大切ですが、そのような思いは意識しなくても本来誰もが持っているものです。
勝つか負けるかという、自分にはコントロールできない「結果」を意識して力んでしまうのではなく、勝つために必要な「過程」の方に、余計な雑念を排して集中することが結果に繋がるんです。
これは勉強でも仕事でも同じで、余計なことを考えず、今やるべきことに集中することが結果につながるのだと学びました。
2つ目は、「怖い時ほど前に出る」という考え方です。
ボクシングの試合中、やはり殴られることへの恐怖はあります。しかし実際には、怖いからといって後ろに下がると、かえって相手の攻撃を受けやすくなってしまいます。だからこそ、怖い時ほど前に出なければならないのです。前に出て間合いを詰めることで、逆に強いパンチの間合いから逃れることができますし、自分のペースを取り戻すことにもつながります。
この考え方は、仕事や勉強にもそのまま当てはまると思っています。
仕事をしていると、どうしても気が重い業務や後回しにしたくなる仕事があります。しかし、そのような仕事を先延ばしにしても状況は良くなりません。むしろ、つらい時こそ先に手を付ける。怖い時こそ前に出る。その姿勢は、ボクシングを通じて身についた大切な価値観の一つです。
振り返ると、大学時代に学んだ「余計なことを考えずに集中すること」「怖い時ほど前に出ること」は、弁護士として働く今でも大切にしている考え方です。
【東大での経験② 法学の学び】
次に、東大で経験できた法学の学びに話を移します。
東大では、大学2年生から本格的に専門科目、法学部なら法学を履修するというカリキュラムになっています。そのため、私もそれに合わせて、2年生から法学の勉強を始めました。
また、私は司法試験予備校にも申し込みました。周りの学生にも、予備校に通う人は多かったです。私の場合、部活動をやっていた関係で、予備校の授業自体にはそれほど出席できませんでしたが、テキストは有効活用させてもらいました。
ただ実は、私自身は予備校の授業よりも、大学の先生方の授業のほうが楽しかったという印象があります。
予備校は、司法試験に向けて効率よく知識を身につけるという点では優れていますが、どうしても「与えられたものを身につける」という学習になりやすい面があります。試験で書く結論の部分だけが強調されがちで、その背景にある思考の枠組みとか、検討の過程とかが捨象されがちなんですね。
もちろん試験に合格するためには必要なことですが、私はそれだけでは少し物足りなさを感じていました。
法学の本当の面白さは、法律や裁判例の奥に、どのような背景や考え方があるのかを考えるところにあると思っています。これらは、予備校よりもむしろ大学で、深く学ぶことができた部分でした。
もちろん最初は難しく感じる部分もありますが、そうした背景まで含めて考えることがとても面白かったですし、法学を学ぶ醍醐味でもあると思っています。少し大げさかもしれませんが、学問的な世界に触れているような感覚があって、自分自身も高揚感を覚えながら勉強していました。そうして学問として法律に向き合っていた時間は、本当に楽しかったですね。
【東大を目指す意味】
振り返ってみると、東大で大学生活を過ごせたことは、私にとって非常に良かったと思います。中でも私が東大の大きな魅力だと思うのは、将来にわたって人生を豊かにしてくれるような人間関係を構築しやすい環境である、ということです。
もちろん、「質の高い教育を受けられる」というのもメリットの一つですが、これからの時代、インターネットやAIなどを活用すれば、ある程度は独力でも学ぶことができます。しかし、「誰と一緒に学び、刺激を受けるか」という価値は、そうしたツールでは代替できません。
東大には、優秀な人や志のある人が数多く集まっています。貴重な大学時代の中で、彼らと同じ環境で切磋琢磨できること自体、非常に価値のある経験であると感じます。
そして、卒業して20年ほど経った今振り返ってみると、学生時代に一緒に飲み会ばかりしていたような友人たちが、それぞれ社会の第一線で活躍する存在になっています。
そうした仲間と長い年月を経ても交流が続き、一緒に仕事をしたり、新しい挑戦をしたりできる。そのダイナミズムこそが、東大というコミュニティの大きな魅力だと感じています。
東大に入れば経歴に箔がつくとか、就職に有利だとか、そういったことは本質ではありません。人生を通してお互いに刺激を与え合いながら、新しいシナジーを生み出していけるような関係を育める環境があること。それこそが、東大に進学する一番の価値ではないかと思います。













