【東大数学分野別解説】#02 難問も多い "整数"
連載:東大数学分野別解説
2021.12.08
分野別過去問解説の第 2 弾です。
今回は整数分野から 2 問ピックアップしました。
最後に東大数学の整数問題の特徴,傾向についても述べていきます!
問 題 1
まずは 2009 年理系第 1 問。文系は (2) までです。
問 題 1 の 解 答
(1)
まず,$d_m$ は ${}_m {\rm C}_{1} \left( = m \right)$ の約数なので,$1$ か $m$ である。
よって,あとは $m$ が素数のとき ${}_{m} {\rm C}_{i} \, (1 \leq i \leq m-1)$ が $m$ の倍数であることを証明すればよい。
実際,${}_{m} {\rm C}_{i} = \displaystyle\frac{m!}{i!(m-i)!}$ の分子は $m$ の倍数であり,分母は $1$ 以上 $m-1$ 以下の整数たちの積なので $m$ の倍数ではない。つまり ${}_{m} {\rm C}_{i}$ は $m$ の倍数であるので題意は示された。■
(2)
まず,$k=1$ のとき,$k^m - k= k - k = 0$ なので,問題文にある主張は正しい。
あとは数学的帰納法を完結させるために,$k^m-k$ が $d_m$ の倍数であるとき $(k+1)^m-(k+1)$ が $d_{m}$の倍数であることを証明すればよい。実際,二項定理より
$\{(k+1)^m-(k+1)\}-(k^m-k) = \displaystyle\sum_{i=1}^{m-1} {}_{m} {\rm C}_{i} k^{i}$
であり,この式の右辺は $d_m$ の倍数であるので,$k^m-k$ が $d_m$ の倍数であるとき $(k+1)^m-(k+1)$ も $d_m$ の倍数となる。■
(3)
$k=d_m - 1$ として (2) の結果を使う($d_m=1$ のときは $k=0$ になってしまうが,(2) の主張は $k=0$ でも成立する)と, $(d_m-1) \{ (d_m-1)^{m-1} - 1 \}$ が $d_m$ の倍数であることが分かる。
ここで,$d_m$ と $d_m-1$ は互いに素であるので,結局 $(d_m-1)^{m-1}-1$ が $d_m$ の倍数であることが分かる。 二項定理により $m$ が偶数のとき $(d_m-1)^{m-1}-1$ は$(d_{m} \, {\rm の倍数}) \, - 2$ となる(ここでいう倍数とは "整数倍" のこと)。以上より $-2$ は $d_m$ の倍数。つまり $d_m$ は 1 または 2 である。■
問 題 1 の ポ イ ン ト ・ 補 足
- (3) はかなり難しいですが,(1), (2) は落ち着いて問題文を読めば難しくありません。簡単な小問を確実に完答することが重要です。
- (1) は有名な定理です。覚えておくとよいでしょう。なお,$i \cdot {}_{m} {\rm C}_{i} = m \cdot {}_{m-1} {\rm C}_{i-1}$ という等式(これも有名なので覚えておくとよい)を使えば $m$ が素数のとき ${}_mC_i$ が $m$ の倍数であることがすぐに分かります。
- $m$ が素数のとき,(2) の主張はフェルマーの小定理と呼ばれる有名な定理と一致します。
- (3) は (2) の結果に $k=d_{m} - 1$ を代入するのが難しいです。(2) の結果をうまく使おうと試行錯誤すれば思いつきやすいでしょう。ちなみに,$k=m-1$ を代入してもほぼ同様にできます。
- $n$ と $n-1$ が互いに素であることは重要です(東大の過去問では 2005 年,2012 年の整数問題においても,この性質を活用する機会があります)。
問 題 2
続いて,2006 年理系第 4 問(文系第 2 問も類題)です。
問 題 2 の 解 答
(1)
整数解を持つためには $z$ についての 2 次方程式 $z^2-xyz+x^2+y^2=0$ の判別式 $D$ が非負であることが必で,計算すると $D=x^2y^2-4(x^2+ y^2)$ となる。
$y\leq 3$という条件のもと,$D$ が非負になるのは $x = y = 3$ のときのみである。
このときもとの方程式は $18 + z^2 = 9z$となり,解は $z = 3, \, 6$ のみである。
よって $(x, \, y, \, z) = \underline{(3, \, 3, \, 3), \, (3, \, 3, \, 6)}$ と求められる。
(2)
$b^2+c^2+z^2=bcz$ という条件を $z$ について解くと,$z = \displaystyle\frac{1}{2} \left( bc\pm\sqrt{b^2c^2 - 4(b^2 + c^2)} \right)$ となる。
この式の右辺は $a^2 + b^2 + c^2 = abc$のとき,
$$
\begin{align}
\displaystyle\frac{1}{2} \left( bc\pm\sqrt{b^2c^2-4(abc-a^2)} \right) &= \frac{1}{2}\left(bc \pm |bc-2a| \right) \\
&= \displaystyle\frac{1}{2} \left( bc \pm (bc - 2a) \right)
\end{align}
$$
つまり $z=a, \, bc-a$ となる。
よって,$z=bc-a$ とすれば問題文の方程式を満たす。
あとは $b \leq c < bc-a$ を示せばよいが,(1) より $b\geq 3$ なので,$bc-a-c\geq 3c-a-c > 0$ となりこれは成り立つ。■
(3)
$(3, \, 3, \, 6)$ からスタートして無数に解を構成する。
具体的には,
$$
\begin{align}
(x_1,y_1,z_1) &= (3,3,6), \, \\
(x_{n+1}, \, y_{n+1}, \, z_{n+1}) &= (y_{n}, \, z_{n}, \, y_{n} z_{n} - x_{n}) \\
&{} \hspace{20mm} (n = 1, \, 2, \, \cdots)
\end{align}
$$
とすれば,任意の自然数 $n$ に対して $(x_n, \, y_n, \, z_n)$ は問題文の方程式の解である。
また,(2) の議論により $x_{n} \leq y_{n} < z_{n}$ という条件も満たし,$z_{n}$ は $n$ に関して狭義単調増加であるため,相異なる無限個の解が構成できた。■
問 題 2 の ポ イ ン ト ・ 補 足
- (1) はいろいろやり方は考えられますが,$(x,y)$ は 6 通りに絞られているので最悪しらみつぶしに調べればよいです。絶対に間違ってはいけない小問です。
- (2) は一番難しい小問ですが,"$z$が存在することを示せ" に対して "具体的に $z$ を構成してやればよい" と考えることができれば難しくありません。東大の整数問題にしては簡単な問題です。
- (1) で初期解,(2) で解の生成方法について分かったので (3) ではそれを組み合わせればよいだけです。初期解+解の生成方法→無限に解があることを示す,というのはよくある流れです(例えば Pell 方程式)。
ま と め 〜 東 大 整 数 の 傾 向 〜
- 東大の整数は "〜〜を求めよ" という問題よりも "〜〜を証明せよ" というタイプの問題が多いです。そのため,日本語できちんと答案を書き上げる力が重要です。また,背理法・数学的帰納法・対偶法などいろいろな証明方法に慣れておきましょう。
- 東大の整数の小問 (1) ではただ実験するだけで答えが求まったり,簡単な証明問題であったりすることも多いです。そのためここで失点するとかなり痛いです。早いうちにきっちり解いて (2) 以降に臨みましょう。また "後半の小問では前半の小問の結果を使うことが多い" ということも気に留めておきましょう。
- 今回の問題 1 の (3) のように,後半の小問は発見的な要素を含む難問であることも。大問全体の完答にこだわりすぎて必要以上に時間を費やさないように注意しましょう。