【東大数学分野別解説】#07 工夫いろいろ "複素数平面"
連載:東大数学分野別解説
2021.12.13
分野別過去問解説です。今回は複素数平面に関する問題を 2 問ピックアップしました。
一問はとても綺麗に解ける良問を,もう一問は旧課程の “一次変換” としての出題だったものの,複素数平面を用いても解ける問題を解説します。
問 題 1
まずは 2016年 理系 第1問。
$z$ を複素数とする。複素数平面上の3点 A($1$), B($z$), C($z^2$) が鋭角三角形をなすような $z$ の範囲を求め, 図示せよ。
東京大学 2016年 理系 第1問
問 題 1 の 解 答
$z = 1$ のときは三角形が成立しないので,以下では $z \neq 1$ とする。
平行移動は三角形の形を変えないので,$-1$ ずつ平行移動した3点 ${\rm A}’(0), \, {\rm B}’(z-1), \, {\rm C}’(z^2-1)$ からなる $\triangle{{\rm A’B’C’}}$ が鋭角三角形となればよい。
また,複素数の割り算は複素数平面上で相似拡大・縮小を伴う回転移動を表すから,この3つの複素数を $z - 1 (\neq 0)$ で割って 3 点 ${\rm A}’’ (0), \, {\rm B}’’(1), \, {\rm C}’’(z+1)$ をとったとき,$\triangle{{\rm A’B’C’}} \sim \triangle{{\rm A’’B’’C’’}}$($ \because {\rm A’B’} : {\rm A’C’} = {\rm A’’B’’} : {\rm A’’C’’}, \, \angle{{\rm B’A’C’}} = \angle{{\rm B’’A’’C’’}}$ より,二辺の比とその間の角が等しい)
さらに $-1$ ずつ平行移動し,3 点 ${\rm D}(-1), \, {\rm E}(0), \, {\rm F} (z)$ からなる $\triangle{{\rm DEF}}$ が鋭角三角形となればよい。
$$
\begin{align}
& \angle{{\rm D}} \, {\rm が鋭角となるための条件:} (z \, {\rm の実部}) > -1 \\
& \angle{{\rm E}} \, {\rm が鋭角となるための条件:} ( z \, {\rm の実部}) < 0 \\
& \angle{{\rm F}} \, {\rm が鋭角となるための条件:} {\rm 円周角を考えて,} \\
& \hspace{20mm} {\rm 「点 \, F \, が \, DE \, を直径とする円の外部にあること」}
\end{align}
$$
以上より,求める領域は下図の境界を含まない彩色部。
問 題 1 の ポ イ ン ト ・ 補 足
- 複素数の性質を活かした美しい解法を紹介しました。
- 計算量は増えますが,普通に $z = x + yi$ とおき,内積を計算するなどして鋭角であるための条件式を立てて整理していくことによっても解けます。むしろ,本番で点を取りに行く姿勢としてはそういう愚直なスタンスでいることも大切です。
問 題 2
続いて 2013年 理系 第1問 です。
実数 $a, \, b$ に対し平面上の点 ${\rm P}_{n} \, (x_{n}, \, y_{n})$ を
$$
\begin{align}
(x_{0}, \, y_{0}) &= (1, \, 0) \\
(x_{n+1}, y_{n+1}) &= (a x_{n} - b y_{n}, \, b x_{n} + a y_{n}) \quad (n = 0, \, 1, \, 2, \, \cdots)
\end{align}
$$によって定める。このとき, 次の条件 ${\rm (ⅰ), \, (ⅱ)}$ がともに成り立つような ($a, b$) をすべて求めよ。
${\rm (ⅰ)} \, \, {\rm P}_{0} = {\rm P}_{6}$
東京大学 2013年 理系 第1問
${\rm (ⅱ)} \, {\rm P}_{0}, \, {\rm P}_{1}, \, {\rm P}_{2}, \, {\rm P}_{3}, \, {\rm P}_{4}, \, {\rm P}_{5}$ は相異なる。
問 題 2 の 解 答
複素数平面上で考え,$z_{n} = x_{n} + y_{n}i$ とおくと,
$$
\begin{align}
z_{n+1} &= (ax_{n} - by_{n}) + (bx_{n} + ay_{n})i \\
&= (a+bi)(x_{n} + y_{n}i) \\
&= (a+bi) z_n
\end{align}
$$
$\therefore z_{6} = (a + bi)^{6} z_{0} = z_{0}$ より,$(a + bi)^{6} = 1$ となるので,$a + bi$ は $1$ の $6$ 乗根,すなわち $a + bi = \cos{\dfrac{kπ}{3}} + i\sin{\dfrac{kπ}{3}} \, (k=0, \, 1, \, 2, \, 3, \, 4, \, 5)$
このうち,条件 ${\rm (ⅱ)}$ を満たすのは $k=1, \, 5$ に対応するものである。それぞれにおける $a, \, b$ を計算すると
$(a, \, b) = \left( \dfrac{1}{2}, \dfrac{\sqrt{3}}{2}\right), \, \left(\dfrac{1}{2}, -\dfrac{\sqrt{3}}{2} \right)$
問 題 2 の ポ イ ン ト ・ 補 足
- 2013年 の出題当時は,複素数平面がまだ高校範囲でなく,旧課程の “一次変換” としての出題でした。
- “複素数平面” の問題としても解けるのですが,上の事情で “複素数平面” としての解答があまり見つからないということで,今回紹介しました。
- 解答ではスマートに $z_{n+1} = (a+bi) z_{n}$ と式変形していますが,そこに至るまでには,
- まず ${\rm P}_{n}$ の遷移の規則を考える
- 原点からの距離を調べてみる…… $\sqrt{a^{2} + b^{2}}$ 倍になっている
- 多分回転と拡大・縮小の話だな……複素数の積の形で表せるのかな?
- といった思考のステップを踏んでいます。つまり,状況把握の段階である程度 “どうせ $\dfrac{π}{3}$ 回転だろう” という見当がついているからこそ,このように議論を進められるのです。
複素数平面の問題は,図形と計算の行き来が必要だからか,人によって得意不得意がはっきり分かれる印象です。セッティングや計算の準備段階での工夫がたくさんあるからかもしれませんね。
一般論として,“図形的に攻めるか計算主体で行くか” の判断は意識的に行いましょう。一方に偏りすぎると,途中で行き詰まったり難しい議論を強いられたりします。