理系のための東大文系数学 2020年 第2問(数え上げのポイント)

東大数学の過去問には良問が多いですが,直前にセットで解く用に解かずに取っておく人は少なくありません。 ただ,東大模試の問題ももちろん悪くはないのですが,やはりオリジナルの問題は別格です。 そこで理系の皆さんは,東大入試で文系数学として出題されたものの中で,文系数学の問題を解いてみるのはいかがでしょうか? 出題範囲は 数学Ⅰ, A, II, B に限られますが,理系で出されてもおかしくない問題が結構ありますし,仮に出題された場合ちょうど合否を分けるレベルになっていることも珍しくありません。 少しでも本番に近い問題を解いて,東大合格に近付きましょう!

東大の場合の数・確率分野と聞くと "確率漸化式" を思い浮かべる受験生が多いかもしれませんが, 実は最近の入試でシンプルな数え上げの問題が出題さています。
というわけで今回は, "数え上げ" の問題を攻略するポイントを解説します。

問 題

座標平面上に 8 本の直線

x=a(a=1,2,3,4),y=b(b=1,2,3,4)

がある。以下,16 個の点

(a,b)(a=1,2,3,4b=1,2,3,4)

から異なる 5 個の点を選ぶことを考える。

(1) 次の条件を満たす 5 個の点の選び方は何通りあるか。
 上の 8 本の直線のうち,選んだ点を 1 個も含まないものがちょうど 2 本ある。

(2) 次の条件を満たす 5 個の点の選び方は何通りあるか。
 上の 8 本の直線は,いずれも選んだ点を少なくとも 1 個含む。

2020年 東京大学 前期二次試験 数学(文科) 第2問

解 答

x 軸方向を ”横”, y 軸方向を ”縦” とよぶ。

(1)

選んだ点を 1 個も含まない直線が 2 本あるとき, それらは (a) 平行, (b) 垂直, の 2 つのいずれか。

(a) 2 直線が平行のとき

それら 2 直線の選び方は 4C2×2=12 通り。

たとえば, 選んだ点を含まない直線が,上の点線となっている直線であるとする。このとき右の 2×4=8 の点から 5 個点を選ぶことになる。
ここで, 横に並んだ 2 点の組を「段」とよぶ こととする。どの実線上にも選ばれる点が少なくとも 1 個必要なため, 4 段それぞれに少なくとも 1 個の選ばれる点が存在し, 1 つの段のみ 2 個が選ばれることとなる。このとき縦の 2 直線は必ず選ばれる 点を含むから, 上図における点の選び方は 4C1×23=4×8=32 通りである。

よって,条件をみたす場合の数は 12×32=384 通りとなる。

(b) 2 直線が垂直のとき

それら 2 直線の選び方は 4×4=16 通り。

選んだ点を 1 個も含まない直線が上の点線となっている 2 直線であるとする。このとき, 残りの 3×3=9 個の交点より 5 個選ぶが, 6 本の直線全てが点を含むことは, 6 つの行または列のうち, 3 点すべてが選ばれないようなものが存在しないことと同じである。そして 9 個の点から 5 個選ぶとき, 3 点すべてが選ばれないような行・列は高々 1 つ。したがって, 9 個の点から 5 個選ぶ方法から 3 点すべてが選ばれないような行・列のある選び方を引けばよく, その場合の数は 9C56×6C5=90 通りである。

2 直線の選び方 16 通りの各々についてこの議論が成り立つため, 条件をみたす場合の数は 16×90=1440 通りとなる。

以上より, 条件をみたす点の選び方の総数は 384+1440=1824 通りである。

(2)

4 本, 横 4 本の直線の交点から 5 個選ぶため, 縦の直線の中には 2 個の点を含むものがちょうど 1 つ存在し (V とする), ほかの 3 直線は 1 点ずつ含む。同様に, 横の直線の中には 2 個の点を含むものがちょうど 1 つあり (W とする), ほかの 3 直線は 1 点ずつ含む。

V とそれが含む 2 点が上図のようであったとする。このとき, (a) V,W の交点が選ばれる, (b) V,W の交点が選ばれない, のいずれか。

(a) VW の交点が選ばれる場合

W は上図の位置とする。このとき, {J,K,L} から 1 つ, {A,B,C,D,E,F} から 2 つ選ぶこととなる。{J,K,L} からの選び方は 3 通りであり, たとえば J を選んだとすると残り 2 点は (B,F)(E,C) のいずれか。よって, このパターンの総数は

(V)×(V2)×(W)×({J,K,L})×({A,B,C,D,E,F})=4×4C2×2×3×2=288

より 288 通りである。

(b) VW の交点が選ばれない場合

W は上図の位置であったとする。このとき, {A,B,C} から 2 つ選び, {D,E,F,G,H,I} から 1

選ぶこととなる。 {A,B,C} からの選び方は 3 通りであり, たとえば (A,B) を選んだとすると残り 1 点は F と定まる。したがって, このパターンの総数は

(V)×(V2)×(W)×({A,B,C})×({D,E,F,G,H,I})=4×4C2×2×3×1=144

より 144 通り。

以上より, 条件をみたす点の選び方の総数は 288+144=432 通りである。

コ メ ン ト

数え上げの問題では "漏れなく・重複なく" というのがカギです。
この一見当然であることをいか に徹底できるかが, 数え上げの問題で正解できるか否かを左右しているといっても過言ではありません。

場合分けの際,

  • それらで全てか (考えられていないケースは存在しないか)
  • 重複はないか (複数の場合分けで数えているものはないか)

を丁寧に検証しましょう。
これさえできていれば, あとは各場合分けの場合の数を計算するだけで, この計算自体は大変ではないことが多いです。

なお今回の問題は, 全体の場合の数から余計な場合の数を引き算するという解法もあるので,興味のある人はぜひその解法も試してみてください。(というか, 実際の試験でもこの方針をとった受験生は少なくないでしょうね。)

参考:最難関大の数え上げ問題

近年の東大・京大入試では数え上げの問題がいくつか出題されていますので, ご紹介しておきます。
興味のある人はチャレンジしてみてください!

2021年度 東大 文系数学 第2問
2020年度 京都大学 文系数学 第5問, 理系数学 第5問

この記事の著者/編集者

林俊介   

東大生講師によるオンライン家庭教師の運営をしたり,登録者22,000 人超えの YouTube チャンネルで大学入試問題の解説をしたりしています。

2019年 東大物理学科卒
Twitter: @884_96

この連載について

理系のための東大文系数学

連載の詳細

最新記事・ニュース

more

2023年度は大幅な難化により話題となった東大物理。合格するための学習のポイントを、今までの傾向と対策を踏まえて確認していきます。また、現実的な目標得点についても考えていきます!

東大化学、合格のためには何点を目指すべきなのでしょうか。東大化学の傾向と対策を踏まえながら、現実的な目標得点について考えていきます!

30回 ―これは、東大受験に関係するであろう模試の年間実施回数です。当然ですが、これをすべて受験するのはお勧めしません。東大合格を目指すうえで、特にどの模試を受験するべきなのか、考えます!

目標とすべき点数はどれくらい? 東大が発表している合格者データを確認! 二次試験   合格最低点 二次試験   合格平均点 第一段階選抜 合格最…

斎藤 匡洋 1Picks

実はアドミッションポリシーで明確に示されている 「どうやったら東大に入れるか?」という疑問は、東大受験を考える方なら誰でもお持ちだと思います。そ…

斎藤 匡洋 1Picks

前の記事:模試受験の心得【受験前】 模試は受験したらそれで終わりではありません。むしろ大切なのは模試の受験後,それをどう活かすかです。せっかく受…

 模試はあくまでも“模擬”試験であってその結果で人生が左右される訳ではありません。「どうせ模試なんだし今の実力を試すために特別な対策をせずに特攻…