【東大数学分野別解説】#16 難しくて奥が深い "軌跡・領域"

この連載では,東大数学の過去問の中から学びの多そうなものを分野別に解説していきます。単に正解を述べるだけでなく,問題を解く際のアプローチや補足事項も添えるので,初見の問題への対応力も磨けることでしょう。

問 題 1

座標平面上の 1 点 P(12,14) をとる。放物線 y=x2 上の 2 点 Q(α,α2),R(β,β2) を,3 点 P,Q,RQR を底辺とする二等辺三角形をなすように動かすとき,PQR の重心 G(X,Y) の軌跡を求めよ。

2011年 東大 文理共通問題

問 題 1 の 解 答

3 点 P,Q,R が三角形をなす,つまり "αβ,α12,β12 である" () ことに注意する。

() のもとで,3 点 P,Q,RQR を底辺とする二等辺三角形をなすことは PQ2=PR2 と同値であり,これを α,β の式で表すと

PQ2=PR2(α12)2+(α214)2=(β12)2+(β214)2(α4β4)+12(α2β2)(αβ)=0(α2+β2)(α+β)+12(α+β)1=0(αβ)

となる。

α,β を用いると,PQR の重心 G の座標 (X,Y)

X=13(α+β+12),Y=13(α2+β2+14)()

をみたすから,さきの二等辺の条件を X,Y で表すと

(3Y14)(3X12)+12(3X12)1=0(3X12)(3Y+14)=1

となる。また,2 式の組 ()

{α+β=3X12α2+β2=3Y14{α+β=3X12αβ=12(3X12)212(3Y14){α+β=3X12αβ=36X212X+212Y8

と同値である。したがって,α,βt の 2 次方程式

t2(3X12)t+36X212X+212Y8=0()

の解である。() も踏まえると,求める (X,Y) の条件は "PQ=PR であり,t の 2 次方程式 () が相異なる 2 つの実数解をもち,かつそれらがいずれも 12 と異なること" である。それを具体的に (X,Y) に関する式として求めると

{(3X12)(3Y+14)=1(())>0(t=12())0{(3X12)(3Y+14)=1(3X12)24136X212X+212Y8>0(12)2(3X12)12+36X212X+212Y80{(3X12)(3Y+14)=1Y>32(X16)2+112Y3(X13)2+16

であり,これより重心 G の軌跡は次図の緑色の太線部のようになる。


問 題 1 の ポ イ ン ト ・ 補 足

文理共通での出題でしたが,初見で解くのはなかなか難しい問題だったはずです。
軌跡の問題では,文字消去をすることにより軌跡の必要条件を求めることが可能ですが,それだけでは軌跡を求めたことにはなりません。
文字消去により得られた曲線上の点の全てが軌跡に属するかを確認する必要があるためです。
本問でもまさに,直角双曲線の全部ではなく一部だけが軌跡となりました。


問 題 2

複素数 a,b,c に対して整式 f(z)=az2+bz+c を考える。i を虚数単位とする。

(1) α,β,γ を複素数とする。f(0)=α,f(1)=β,f(1)=γ が成り立つとき,a,b,c をそれぞれ α,β,γ で表せ。

(2) f(0),f(1),f(i) がいずれも 1 以上 2 以下の実数であるとき,f(2) のとりうる範囲を複素数平面上に図示せよ。

2021年 東大 理系数学 第2問

問 題 2 の 解 答

(1) f(0)=c,f(1)=a+b+c,f(i)=a+bi+c より

{α=cβ=a+b+cγ=a+bi+c

であり,これより

{a=iα+1+i2β1i2γb=(1+i)α+1i2β+1i2γc=α

を得る。

(2)

(1) の結果を用いると

f(2)=4a+2b+c=4{iα+1+i2β1i2γ}+2{(1+i)α+1i2β+1i2γ}+α=(12i)α+(3+i)β+(1+i)γ(w)

となるから,α,β,γ が各々 1 以上 2 以下の実数を動くときに,複素数 w の動く範囲を求めればよいが,α:=α1,β=β1,γ=γ1 とすることで

w=(12i)α+(3+i)β+(1+i)γ=(12i)(α+1)+(3+i)(β+1)+(1+i)(γ+1)=(12i)α+(3+i)β+(1+i)γ+1

と変形できるので,α,β,γ0 以上 1 以下の実数を動くときの複素数 w の動く範囲もさきの範囲と同じであり,これを求めることとする。

まず α=0 と固定すると w=(3+i)β+(1+i)γ+1 と書ける。β,γ が各々 0 以上 1 以下の実数を自由に動くと,w は複素数 1, 1+(3+i)=4+i, 1+(1+i)=i, 1+(3+i)+(1+i)=3+2i を頂点とした平行四辺形の周および内部を動く。

次に α0 以上 1 の範囲で動かすと,w の動く範囲はさきの平行四辺形を 12i 平行移動したときにこれが通過する領域であることがわかり,具体的に図示すると次の通り。

赤色部分が α=0 に対応する平行四辺形。答えは色の付いている部分全体 (境界含む)

問 題 2 の ポ イ ン ト ・ 補 足

逆像法ばかり扱っていると,図形をそのまま動かして領域を求めるというアプローチを忘れてしまうかもしれません。
本問も逆像法で答えを出すことはできるでしょうが,このように図形をそのまま動かしてしまう方が明快だと思います。(曲線的な移動が全くありませんので。)
本問のほかにも,2019年の文系数学第4問で,図形を動かして領域を求める問題が出題されています。


問 題 3

座標平面の原点を O で表す。線分 y=3x(0x2) 上の点 P と,線分 y=3x(3x0) 上の点 Q が,線分 OP と線分 OQ の長さの和が 6 となるように動く。このとき,線分 PQ の通過する領域を D とする。

(1) s3s2 をみたす実数とするとき,点 (s,t)D に入るような t の範囲を求めよ。

(2) D を図示せよ。

2014年 東大 文系数学 第3問

問 題 3 の 解 答

線分 PQ の存在範囲は ymax{3x,3x} に限られるが,まず線分ではなく直線 PQ の通過領域を考え,最後に 3x1 および ymax{3x,3x} の条件を課したものを求めることとする。(※ここが地味ながら重要なポイントです。)

P の座標を (p,3p)(0p2) とする。OP+OQ=6 より点 Qx 座標は p3 となる。ここで 3p31 となるため,p の動く範囲は単に 0p2 としてよい。点 Q の座標が (p3,3(p3)) であるため,直線 PQ の方程式は

y3p=3p(3(p3))p(p3)(xp)y=13(2p3)x+13(2p2+6p)

である。この x の値を s に固定し,p を動かしたときの y の値域を求める。

x=s として yp の関数として整理すると

y=13(2p3)x+13(2p2+6p)=23(p32(1+13s))2+332(1+13s)23s=23(p32(1+13s))2+332(1+19s2)

となる (最右辺を f(p) とおく)。

p を制限しないときに y が最大となるのは p=32(1+13s) のとき (この値を p とする) であるが,この値が 0p2 に入るのは

032(1+13s)23s1

のときである。また,f(0)f(2) の大小関係が入れ替わるのは

(1+13s)=1s=0

のときである。以上を踏まえ,s=0,1 を境に場合分けすることにより f(p)(0p2) の最大値 fmax・最小値 fmin を求める。ただし,冒頭で述べた通り線分 PQ の存在範囲が ymax3x,3x に限られることに注意する。

(i) 3s0 のときは,fmax=f(p)=332(1+19s2)fmin=f(2)=4+s3 となる。またこのとき fmin3s である。

(ii) 0s1 のときは,fmax=f(p)=332(1+19s2)fmin=f(0)=3s となる。またこのとき fmin3s である。

(iii) fmax=f(2)=4+s3fmin=f(0)=3s となる。またこのとき fmin3s である。

(s,t)D に入るための条件は以下の通り。

{3s03st332(1+19s2)0s13st332(1+19s2)1s23st4+s3

(2)

(1) の結果の範囲 (D) を図示すると次のようになる。境界は全て含む。


問 題 3 の ポ イ ン ト ・ 補 足

難関大対策の数学を勉強していると,逆像法が目立ち気味で,本問のようにシンプルな順像法が思いつかないかもしれません。ただ,考えてもみれば軌跡・領域を求める基本 (自然な手順?) は順像法なので,まずはこれをしっかり勉強すべきなのかもしれませんね。
ほかにも,2015 年度の理系数学第 1 問が順像法による攻略が可能です。

"直線 PQ" ではなく "線分 PQ" の通過領域となっているのが厄介ですが,3s1 の範囲でまず "直線 PQ" の通過領域を考え,あとで ymax{3x,3x} という範囲を課して V 字にカットするという方針をとることで,面倒な議論を省略できます。


参考問題

東大の数学では,軌跡・領域の問題がほかにも多数出題されています。
参考までに,いくつか問題例を載せておきます。

1 辺の長さが 1 の正六角形 ABCDEF が与えられている。点 P が辺 AB 上を,点 Q が辺 CD 上をそれぞれ独立に動くとき,線分 PQ2:1 に内分する点 R が通りうる範囲の面積を求めよ。

2017年 東大 文系数学 第2問

a,b を実数の定数とする。実数 x,y

x2+y225,2x+y5

をともに満たすとき,z=x2+y22ax2by の最小値を求めよ。

2013年 東大 文系数学 第3問

座標平面上の 2 点 P,Q が,曲線 y=x2(1x1) 上を自由に動くとき,線分 PQ1:2 に内分する点 R が動く範囲を D とする。ただし,P=Q のときは R=P とする。

(1) a1a1 をみたす実数とするとき,点 (a,b)D に属するための b の条件を a を用いて表せ。

(2) D を図示せよ。

2007年 東大 理系数学 第3問

まとめ 〜軌跡・領域のポイント〜

今回は,

  • 問題1:逆像法
  • 問題2:順像法(図形を動かす)
  • 問題3:順像法(関数の値域を求める)

という 3 パターンの問題をご紹介してみました。

軌跡・領域の問題は大変奥深く,難易度も高めになりがちです。
その分差がつきやすい分野でもあるので,高校数学の未習範囲がなくなり,基礎的な力が付いてきたらぜひ重点的に対策してみてください。
さまざまな種類の問題を解いたり,同じ問題を複数のアプローチで解いてみると,理解が深まることでしょう。

この記事の著者/編集者

林俊介   

東大生講師によるオンライン家庭教師の運営をしたり,登録者22,000 人超えの YouTube チャンネルで大学入試問題の解説をしたりしています。

2019年 東大物理学科卒
Twitter: @884_96

この連載について

東大数学分野別解説

連載の詳細

最新記事・ニュース

more

2023年度は大幅な難化により話題となった東大物理。合格するための学習のポイントを、今までの傾向と対策を踏まえて確認していきます。また、現実的な目標得点についても考えていきます!

東大化学、合格のためには何点を目指すべきなのでしょうか。東大化学の傾向と対策を踏まえながら、現実的な目標得点について考えていきます!

30回 ―これは、東大受験に関係するであろう模試の年間実施回数です。当然ですが、これをすべて受験するのはお勧めしません。東大合格を目指すうえで、特にどの模試を受験するべきなのか、考えます!

目標とすべき点数はどれくらい? 東大が発表している合格者データを確認! 二次試験   合格最低点 二次試験   合格平均点 第一段階選抜 合格最…

斎藤 匡洋 1Picks

実はアドミッションポリシーで明確に示されている 「どうやったら東大に入れるか?」という疑問は、東大受験を考える方なら誰でもお持ちだと思います。そ…

斎藤 匡洋 1Picks

前の記事:模試受験の心得【受験前】 模試は受験したらそれで終わりではありません。むしろ大切なのは模試の受験後,それをどう活かすかです。せっかく受…

 模試はあくまでも“模擬”試験であってその結果で人生が左右される訳ではありません。「どうせ模試なんだし今の実力を試すために特別な対策をせずに特攻…