【東大数学分野別解説】#08 証明問題で出やすい "整式 (微積分以外)"

この連載では,東大数学の過去問の中から学びの多そうなものを分野別に解説していきます。単に正解を述べるだけでなく,問題を解く際のアプローチや補足事項も添えるので,初見の問題への対応力も磨けることでしょう。

今回のテーマは "整式" です。
ただし,数学II の微分・積分が主な内容ではない問題を扱います。

東大入試では,文系・理系ともに整式に関する問題がよく出題されます。
たとえば整式の割り算を学ぶのは 数学II の最初の方ですから,学習が比較的後になる

  • 微分
  • 積分
  • ベクトル

あたりと比べて "難しい" という印象はないかもしれません。
しかし,東大ではさまざまな観点での整式の問題が出題されており,中には難しいものもあります。

問 題 1

n は正の整数とする。xn+1x2x1 で割った余りを anx+bn とおく。

(1) 数列 an,bn,n=1,2,3,

{an+1=an+bnbn+1=an

 を満たすことを示せ。

(2) n=1,2,3, に対して,an,bn は共に正の整数で,互いに素であることを証明せよ。

2002年 東大 文理共通問題

問 題 1 の 解 答

(1)

xn+1x2x1 で割った商を fn(x) とする。このとき xn+1=fn(x)(x2x1)+anx+bn なので

xn+2=xfn(x)(x2x1)+anx2+bnx=xfn(x)(x2x1)+anx(x2x1)+(an+bn)x+an={xfn(x)+an}(x2x1)+(an+bn)x+an

であり,xn+2x2x1 で割った余りは (an+bn)x+an となる。an,bn の定義より an+1=an+bn,bn+1=an(n=1,2,3,) が成り立つ。■

(2)

まず x2=1(x2x1)+1x+1 より a1=1,b1=1 であり,これらの最大公約数は 1 である。

次に,k を正整数とするとき,ak,bk の最大公約数が 1 であったとする。Euclid の互除法の考え方に基づくと

(ak+1bk+1)=(bk+1ak+1bk+1)=(akbk)(ak+1=ak+bk,bk+1=ak)

が成り立ち,これは仮定より 1 である。■


問 題 1 の ポ イ ン ト ・ 補 足

  • 整式の割り算は,このように漸化式との相性がよいです。東大で頻繁に出題されているわけではありませんが,たとえば京大の過去問にはこの類の問題が散見されます。
  • (注:これは今回の趣旨と関係が薄いです。) 数学的帰納法による証明はさまざまな書き方ができますが,今回のようなさっぱりした書き方でもよいでしょう。解説の内容は,実際の試験で答案として書いても問題ない最低限の量だと思ってください。もちろん,"数学的帰納法で証明する" や "(ii) n = k のとき" といった文言を書いても OK です。

問 題 2

nk を正の整数とし,P(x) を次数が n 以上の整式とする。
整式 (1+x)kP(x)n 次以下の項の係数が全て整数ならば,P(x)n 次以下の項の係数は,すべて整数であることを示せ。ただし,定数項については,項それ自体を係数とみなす。

2007年 東大 理系数学 第1問

問 題 2 の 解 答

m を正の整数,Q(x) を整式とするとき,(1+x)Q(x) の係数がすべて整数ならば,Q(x) の係数はすべて整数であること () を示す。まず Q(x) の次数を m 次とし,

Q(x)=a0+a1x+a2x2++amxm=k=0makxk

とすると

(1+x)Q(x)=(a0+a1x+a2x2+amxm)+x(a0+a1x+a2x2+amxm)=a0+(a0+a1)x+(a1+a2)x2++(am1+am)xm+amxm+1

となる。ここで (1+x)Q(x) の係数がすべて整数とすると,

{a0=()a0+a1=()a1+a2=()am1+am=()am=()

が成り立つ。第 1 式より a0 は整数であり,これと第 2 式より a1 は整数であり,同様にこれらの式を上から用いることで,a1,a2,a3,,am がすべて整数であることがいえる。

こうして示された () において Q(x)=(1+x)k1P(x) に,m(1+x)k1P(x) の次数におきかえることで,(1+x)k1P(x) の各次数の係数は整数とわかる。次に () において Q(x)=(1+x)k2P(x) に,m(1+x)k2P(x) の次数におきかえることで,(1+x)k2P(x) の各次数の係数は整数とわかる。以下同様の操作を繰り返すことで,P(x) の各次数の係数は整数であることが示される。■


問 題 2 の ポ イ ン ト ・ 補 足

  • さまざまな書き方ができる証明問題ですが,どのような方針であっても上のように連立方程式からもとの係数がすべて整数であることを示す過程は必須と思われます。
  • 問題文では n,k,P(x) という文字等が登場していますが,まず一般の場合を証明したかったこと,P(x) の次数が定まっていないこともあり,解説では m,Q(x) という新しい文字で議論しました。こうした取り組みは必須ではありませんが,これにより自分で自分を混乱させる可能性を減らすことができます。

ま と め

微積分を伴わない整式の問題は,このように数学的帰納法や "順次示す" 類の議論と非常に相性がよいです。
また,求値問題ではなく証明問題が多いのも特徴です。
記述式の試験ですから,"頭の中でなんとなく理解できている" 状態では当然不十分です。
多分解けるからいいや,ではなく,実際に答案を作成し,自分の議論を形にできるようにしておきましょう!

この記事の著者/編集者

林俊介   

東大生講師によるオンライン家庭教師の運営をしたり,登録者22,000 人超えの YouTube チャンネルで大学入試問題の解説をしたりしています。

2019年 東大物理学科卒
Twitter: @884_96

この連載について

東大数学分野別解説

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